ワクチン接種について

いよいよワクチン接種が始まりました。新型コロナウイルスもそろそろ収束していくと良いのですが。
新型コロナウイルスが収束するかはワクチンにかかっていると言っても過言ではありません。今回はこれまでのコロナ対策を踏まえながらワクチンについて解説していきます。

 

新型コロナウイルス(以下「新型コロナ」という。)は依然、世界的に猛威を振るっています。数多くの死者を出し続けておりその脅威はいまだ衰えていません。そんな中、日本でもワクチンの接種がいよいよ始まりました。ワクチンが新型コロナの救世主になれるのか、今回はワクチンについて考えていきます。

 

以下、目次となります。

 

コロナ対策の効果

①手洗い、うがい、アルコール消毒の徹底
新型コロナウイルス(以下「新型コロナ」という。)対策として最も効果があり、誰でも簡単にできるのが手洗いとうがいです。

手や指に付着しているウイルスの数は、流水による15秒の手洗いだけで1/100に、石けんやハンドソープで10秒ももみ洗いし、流水で15秒すすぐと1万分の1に減らすことができると言われ、接触感染を防ぐには最も有効な方法といえます。

また、新型コロナは飛沫を吸い込むことによって上気道から感染するため、うがいもウイルスを輩出するためには非常に有効な方法といえます。外出先から帰った時や食事の前後、外出先でも多くの人が共有するドアノブや手すりに触れた後は、こまめに手洗い、うがいをすることが大切です。

外出先に水道がない、手洗いができないという場合にはアルコール消毒も有効です。新型コロナはエンベロープという脂質でできた膜を持っているウイルスですが、アルコールによってこの膜を壊すことができ、ウイルスを弱らせることができるため、有効とされています。外出先でどうしても手が洗えないという場合には、アルコール消毒を携帯して消毒することも大切です。

手洗いやアルコールによる消毒が済むまでは、手を口元や鼻に近づけることを避けることで接触感染を予防することができます。

②マスクの着用
マスクは咳エチケットとして、自分がウイルスを保持していた場合に他者に感染させないということだけでなく、ウイルスが移らないためにも効果があります。一般で使用される不織布マスクは、医療用のサージカルマスクとほぼ同じ効果があるとされており、不織布マスクを装着することで、飛沫感染やエアロゾル感染に効果があると考えられています。

これまでWHOは健康な人がマスクを着用しても新型コロナの感染を予防できる根拠がないとしていましたが、感染が広がっている地域の公共の場でのマスク着用を推奨すると発表しており、マスク着用の効果が世界的にも立証されている形となっています。

布マスクについては効果について研究がなされていないため不明とされています。※エアロゾル感染…空気中に浮遊する粒子による感染

③ソーシャルディスタンスを取る
新型コロナは飛沫感染といわれています。飛沫とは咳やくしゃみ、会話の際に飛ぶ唾液のことをいいますが、この飛沫にはウイルスが含まれています。咳1回で、約10万個のウイルスが約2m飛ぶとされており、1回のくしゃみで、ウイルスが3mも飛ぶとしています。

この時の速度は、時速約300㎞とも言われています。さらに新型コロナに感染している人が1分間話すと、ウイルスを含む飛沫が少なくとも1,000個発生して、8分間は空気中を漂うということも最近分かってきています。

このことからも、厚生労働省はソーシャルディスタンスとして、人と2mほどの距離を取り、飛沫を浴びないようにすることを推奨しています。

④密室を避けて換気を行う
当初、新型コロナは接触感染と飛沫感染のみと考えられていましたが、研究が進むにつれて空気感染(エアロゾル感染)の可能性もあることが分かってきました。空気感染を予防するためには、換気を充分に行うこと、密室を避けることが必要です。

ソーシャルディスタンスを取っていたとしても、空気感染の場合にはウイルスが空気中を漂っているため、感染を避けることは難しいものなので、換気を自分で行える環境にある場合には、窓を開けて空気の流れを作り、もしも自分で換気を行えない場合には、密室の利用を避けることが望まれます。

⑤接触確認アプリの活用
新型コロナの陽性者との接触を知らせるスマホ用アプリ「COCOA」が厚生労働省によって、昨年6月から提供されました。陽性登録者から1m以内に15分以上いた場合に通知が来るようになっており、プライバシーへの配慮から、電話番号や氏名、位置情報などは使わず、接触記録もスマホ端末内で照合する仕組みとなっています。

このアプリを使うと、検査受診など保健所のサポートを早く受けられ、陽性者に接触した人が、検査を受けたり外出を控えたりすれば感染が広がりにくくなることとなり、利用者が増えれば感染拡大防止が期待できるとされていました。

これまでに約2500万件ダウンロードされ、うち約770万件を占めるアンドロイド端末向けで、昨年9月末から陽性者との接触があっても通知が来ない状態が続き、その不具合は4か月以上も放置されています。

ワクチンが効果を発揮するまで、大規模な行動制限を避けるには、感染経路の追跡が欠かせないものであり、原因究明と早急な改修により体制の立て直しが求められます。

コロナに効くといわれる薬

①アビガン
「アビガン」は、富士フィルム富山化学が開発した抗ウイルス薬で、新型インフルエンザの治療薬として承認されていて、新型コロナでも治療効果が期待されています。

会社は昨年9月、新型コロナの患者を対象にした治験の結果を発表し、薬を投与することで、病状が改善してPCR検査で陰性になるまでの期間が2.8日短縮される効果が確認できたとしました。また、治験ではこれまで知られている以外の副作用は見られず、安全性に関する新たな懸念はなかったということです。

この結果を受け会社は、10月16日、アビガンについて新型コロナの治療薬として正式に承認を得るため厚生労働省に申請を行ったと発表しました。

②レムデシビル
「レムデシビル」は新型コロナの治療薬として2020年5月に厚生労働省が特例承認し、原則、人工呼吸器や人工心肺装置=ECMOを付けている重症患者などに投与が限定されていました。その後、製薬企業から追加で臨床試験のデータが提出され、厚生労働省は「重症患者以外でも有効性が確認された」などとして、投与を認める対象を肺炎になった中等症患者も拡大しました。

一方、日本への供給量が限られていることから、当面重症患者への使用を希望する医療機関に限定して供給するとしています。

レムデシビルをめぐっては、WHO=世界保健機関が2020年11月「死亡率の低下などにつながる重要な効果はなかった」などとして、入院患者への投与は勧められないとする方針を公表していますが、厚生労働省は「これまでの評価に影響を及ぼすものではない」としています。

③アクテムラ
新型コロナで重篤となった患者に、日本で開発された関節リウマチの治療薬を投与することで、死亡率が下がったなどとする研究成果を、イギリスの大学などのグループが公表しました。

グループでは、集中治療室で人口呼吸器をつけている重症の患者およそ800人を対象に、関節リウマチの薬「アクテムラ」を投与して効果を調べました。その結果、「アクテムラ」を使わなかった患者およそ400人では死亡率が35.8%だったのに対し、「アクテムラ」を投与したおよそ350人は死亡率が28%と7ポイント余り低くなっていました。また集中治療を受ける期間が10日ほど短くなったということです。

「アクテムラ」は、大阪大学の岸本忠三特任教授らのグループと中外製薬が開発した関節リウマチの薬で、免疫が暴走して自分の細胞を攻撃してしまう「サイトカインストーム」という現象を抑える効果があると期待されています。

④イベルメクチン
ノーベル医学・生理学賞を受賞した大村智さんが発見した物質をもとに開発された、感染症の「イベルメクチン」について、新型コロナの新たな治療薬として国の承認を目指す治験を近く始めると、北里大学病院が発表しました。

「イベルメクチン」は、北里大学の大村智特別栄誉教授が発見した物質をもとに開発された、寄生虫が引き起こす感染症の特効薬で、北里大学病院は昨年9月17日、患者に投与して新型コロナの新たな治療薬としての承認を目指す治験を近く始めると発表しました。

治験は、新型コロナに感染して軽症から中等症となった20歳以上の患者240人を、薬を投与するグループと偽の薬を投与するグループに分け、ウイルスが検出されなくなるまでの期間や形状の変化などを比較する計画で、本年3月までかけて有効性や安全性を確認することとしています。

⑤デキサメタゾン
「デキサメタゾン」は、重度の肺炎やリウマチなどに使用されるステロイド剤で、イギリスで行われた臨床試験の結果、新型コロナによる重症患者の死亡例を減少させたことが、昨年の6月に明らかになりました。

これを受け、厚生労働省は、新型コロナ感染症の診断ガイドラインに、「デキサメタゾン」を新たに掲載しました。軽症患者については効果が見られなかったということで、重症患者への投与を推奨することとしております。

この薬はすでに重度の感染症や肺炎の治療薬として国内で広く使われているため新たな承認の手続きは必要ありませんが、厚生労働省は治療薬としての周知を図ることにしています。

 

ワクチンの種類

ワクチンは、病原体(病気を引き起こす細菌やウイルスなど)の特徴を前もって私たちの身体の免疫システムに覚えさせるものです。うまく免疫システムが病原体を「記憶」することができれば、体内に病原体が侵入してきたときに、その記憶を頼りに、病原体を攻撃する「抗体」を多く作り出すことができます。

こうして、ウイルスの感染や病気の発症を予防したり、重症化を防いだりすることができます。

①生ワクチン
生ワクチンは「弱毒化ワクチン」とも呼ばれ、実際のウイルスの中から毒性の弱いものを選んで増やしたものです。

生ワクチンは効果が高いものが多く、はしかや風疹、BCGなど従来からさまざまな病気に対して使われています。

新型コロナのワクチンとして開発するうえでの課題は、ウイルスの培養技術の難しさにあると言われ、ウイルスを培養する手法が十分高度に確立されていなければ、弱毒化したウイルスの選別は難しいようです。現在米国のコーダジェニックス社などが開発中です。

②不活化ワクチン
不活化ワクチンは、薬剤処理をして、感染・発症する能力を失わせたウイルスを投与する方法です。ウイルスに感染性がなくても、ウイルス自体を投与することで免疫システムにウイルスの構造を記憶させることができます。

生ワクチンに比べて副反応が少ないと考えられている一方で、免疫が維持される期間が短く、期間を空けて複数回接種しなければならない場合もあります。実用化事例では、インフルエンザ、日本脳炎、ポリオ等がありますが、新型コロナ用には、中国のシノバック、シノファーム社や日本のKMバイオロジクスなどが開発中です。

③組換えタンパク質ワクチン
組換えタンパク質ワクチンは、ウイルスの構造の一部(タンパク質)を培養細胞や酵母を使って生産し、そのたんぱく質を注入する方法です。生ワクチン、不活化ワクチンと比べて、ウイルスそのものを投与しない分、副反応が起こりにくいとされています。

課題は、投与したときに免疫がうまく機能するたんぱく質を見つけることができるかという点等があります。実用化事例では、B型肝炎、百日咳、破傷風等があり、新型コロナ関連では、米国のノババックス社、仏国のサノフィ社、日本の塩野義製薬等が開発中です。

④ウイルスベクターワクチン
ウイルスベクターワクチンは、無害なウイルスを新型コロナの遺伝子を運ぶ「運び屋(ベクター)」として利用する方法です。ウイルスと共に体内に運ばれた遺伝子からコロナウイルスのたんぱく質が作られ、免疫が獲得されることになります。実際のウイルス感染に近い状態を再現するので、効果は高いと期待されています。

ただし、運び屋であるウイルス自体が免疫によって排除される懸念があります。新型コロナ関連では、米国のジョンソン&ジョンソン社、英国のアストラゼネカ社、ベルギーのヤンセンファーマ社、ロシアのガマレヤ疫学・微生物学研究所、日本のIDファーマ社等が開発中です。

⑤DNAワクチン
DNAワクチンは、新型コロナの遺伝子を含むDNAを直接投与し、体内で新型コロナのたんぱく質を作らせることで、免疫システムを活性化させる手法です。DNAを合成すること自体は比較的簡単なので、開発スピードやコスト面で非常に優れています。その反面、人の体内で適量なたんぱく質を作れるか、また体内にDNAが残存する影響が不安視されています。新型コロナ関連では、インドのザイダスカディラ社、日本のアンジェス社等が開発中です。

⑥mRNAワクチン
mRNAワクチンは、ウイルスの表面にあるスパイクたんぱく質を作るための遺伝情報を伝達する物質、「mRNA」を使います。人工的に作って注射で投与することで、体の中でスパイクたんぱく質が作られ、それを受けて免疫の働きによって抗体が作られます。

新型コロナの感染が広がる前には実用化されていない新たな技術で、開発に係る期間が従来のワクチンより大幅に短縮できるのが、大きな利点になっています。新型コロナ関連では、米国のファイザー社、モデルナ社、日本の第一三共社等が開発を進めています。

 

世界のワクチン状況

世界では、70を超える国や地域で接種が始まっていて、少なくとも7種類の新型コロナワクチンが実際に使用されています。2021年2月17日現在で、全世界で接種された新型コロナワクチンは、合わせておよそ1億7800回分です。

人口に対する接種を受けた人の割合では、イスラエルがおよそ46.1%と最も高くなっていて、イギリスは22.5%、アメリカは11.5%などとなっています。また、世界人口全体に対しての割合は1%余りに留まっています。

①イギリス
2020年12月、世界に先駆けて、ファイザー社などが開発したワクチンの接種が始まったイギリスでは、これまでに1550万人以上が少なくとも1回ワクチンを接種しています。人口が6660万人余りのイギリスで、これまでに確認された感染者は420万人を超え、死者はヨーロッパで最も多く、12万人を超えています。

イギリスは昨年12月に変異ウイルスが急速に拡大し、1日当たりの感染者が6万人を超えた日もありました。その後は減少傾向となり、2月16日に報告された感染者は10,625人となっています。背景には、外出制限や生活必需品を扱う店以外の営業を原則として禁止するといった厳しい措置の効果があると指摘されています。ワクチンを接種した人の感染状況などは近く発表される見通しとなっています。

②アメリカ
2020年12月から新型コロナワクチンの接種が始まったアメリカでは、これまでに3900万人以上が少なくとも1回の接種を受けています。接種のペースは加速していますが、大都市では供給のスピードが接種を求める人に追い付かない状況も生まれています。

これまでに確認された新型コロナの感染者が2800万人以上と世界で最も多いアメリカでは、1日当たりの感染者数が2021年1月初めのおよそ30万人をピークに、このところ減少傾向にあり、1日当りに報告される感染者は2月中旬の平均で、およそ88,000人にまで減少しています。

ワクチンを供給する製薬会社のファイザー社とモデルナ社は、それぞれ本年3月末までに1億回分ずつ、合わせて2億回分を供給するのを初めとして、7月末までに合わせて6億回分を供給する契約をアメリカ政府と結んでいて、バイデン大統領は「3億人のアメリカ国民が接種するのに十分なワクチンを供給できる見通しだ」と述べています。

③欧州連合(EU)
コロナ過が収まらないEU各国で昨年12月27日、ワクチン接種が一斉に始まりました。英国で確認された「変異種」にも有効だとされています。副反応を懸念する市民もいますが、「感染の大流行を終わらせ、生活を取り戻す糧だ」と期待をかけています。

独バイオ企業ビオンテック社と米製薬大手ファイザー社が共同開発したワクチンを用い、ベルギーにあるファイザーの工場から、人口比に応じて順次各国に届けられます。

ⅰ ドイツ
ドイツでは2020年12月、巡回車が介護施設などを訪れて80歳以上の高齢者や介護職員、救急医療の従事者らを最優先して接種が始まりました。3月末までに1100万~1200万回の供給を見込んでいます。1人が2回接種する必要があるため、まず550万~600万人が対象になります。

ドイツは昨年12月16日から、ほとんどすべての商店の営業を禁じるなどロックダウン(都市封鎖)を強めていますが、感染は落ち着いていません。昨年12月には、1日の新規感染者数が約3万2千人を超え、死者数も802人を記録しています。

ⅱ フランス
フランスは、パリ近郊の高齢者向け医療施設などで始めました。新型コロナによる国内の死者は本年3月には8万7千人を超えました。春と秋、2度の厳しい外出禁止令を課してもなお、12月の1日の感染者数は2万人を超え、増加傾向にあります。封じ込める手段が見当たらず、ワクチン接種に期待をかけています。

仏政府の計画では、接種は3段階で実施。まず高齢者向け介護施設などの入所者や、持病を持つ高齢者、施設で介護するスタッフたちを最優先します。2月中旬には、75歳以上、65歳以上の市民、そして50歳以上医療従事者たちを想定し、1400万人が対象になります。残りの市民は春以降となり、いずれも無料で強制はしないとされています。

ⅲ イタリア
EU最多の9万8千人の死者が出ているイタリアでは、ローマにある感染症専門病院で働く看護師が、昨年12月27日に最初に接種を受けました。医師や看護師、高齢者施設の職員たちに続く市民の接種は本年1月以降から進められています。政府は高齢者を優先して、希望者への接種を進めていく方針です。

④イスラエル、ロシア
ⅰ イスラエル
世界でも早いペースでワクチンの接種を進めているイスラエルでは、去年12月中旬から新型コロナのワクチンの接種が始まり、これまでに国民の4割を超える399万人が1回目の接種を受け、このうちの261万人は2回目も受けています。

イスラエルでは、12月下旬から続いてきた3度目の厳しい外出制限が、今月一部緩和されていて、政府は、ワクチン接種した人については、スポーツジムやホテルが利用できるように取り計らっています。ネタニヤフ首相は、3月末までに16歳以上の国民全員に、ワクチンを接種することを目指しています。

ⅱ ロシア
ロシアは、ロシアで開発された新型コロナワクチン「スプークトニクV」の大規模接種を、昨年12月に医療関係者や教員たち感染リスクが高い職業の人達に開始しました。ただ最終段階の臨床試験は完了しておらず、安全性や有効性を懸念する声も根強くあります。

スプークトニクVは昨年8月、新型コロナワクチンとしてロシアが世界で初めて承認しました。開発に関わる政府系の「ロシア直接投資基金」によると有効性は95%。欧米製と比べて安値で輸出する計画もあり、ワクチンを国威発揚やプーチン政権の外交戦力に政治利用しているとの批判も出ています。

⑤中国、インド
ⅰ 中国
中国企業が開発した新型コロナワクチンが、新興国を中心に承認され始めています。但し、有効率95%前後という高い予防効果を記録した欧米企業のmRNAワクチンに対し、不活化ワクチンを基盤とする中国製ワクチンは相対的に低い有効率が報告されており、安全性評価も含めた更なるデータ開示が求められます。

中国では、昨年の夏から国営企業のシノバック社やシノファーム社が開発したワクチンの緊急使用が認められ、すでに数百万人に摂取されたと言われます。通常の冷蔵庫並みの2~8度で輸送や保管ができ、設備のない途上国でも受け入れやすいとされています。中国は途上国を中心とする53の国と地域にワクチンの無償援助をする方針を表明し、先行して援助を始めた14か国・地域のうち9か国がをアジア諸国が占めます。

ⅱ インド
インド政府は、本年1月以降ワクチンの無償提供を始めました。バングラディッシュ、ミャンマー、ネパール、スリランカ、アフガニスタン、モルティブ等に空輸を行っています。これらの国々には一帯一路がらみのインフラ整備などで中国から多額の資金が入っており、中国の影響力拡大を懸念するインドでは、得意の分野であるワクチンで巻き返しを図ろうとしています。

インドは世界で流通するワクチンの6割を製造します。乳幼児の死亡率が高く、デング熱や結核などの予防に迫られ、ワクチン開発が進んでいます。新型コロナでも、世界最大のワクチン製造能力を持つとされるインドの製薬大手「セラム・インスティテュート・オブ・インディア」が、英国を中心に接種が進む英製薬大手アストラゼネカ社などが開発したワクチンをインド国内で製造します。

有効性は平均で約70%とされ、中国製と同じく保存がしやすいと言われます。

⑥発展途上国
新型コロナワクチンを共同調達する国際的な枠組み「コバックス」によるワクチンの供給が、本年2月に始まりました。コバックスは世界保健機関(WHO)などが主導するもので、日本を含む190カ国が参加し、先進国の拠出金などをもとにワクチンを共同調達する枠組みです。

年末までに少なくとも20億回分の供給を目指し、暫定計画によると、今年前半には計約3億4千万回分が、中低所得国を中心に145カ国に割り当てられる見通しです。英製薬大手アストラゼネカなどが開発したワクチンがアフリカのガーナ、コートジボワール等に届けられ、他の国にも順次届けられる予定です。

2009年の新型インフルエンザの流行で、裕福な先進国が製薬会社からのワクチン買い占めに動き、途上国が置き去りにされかかったという教訓をもとに、設立されたのがコバックスです。

途上国の接種が遅れて感染が収まらなければ、先進国との貿易にも影響が出て、世界経済全体の損失が広がるとの考え方によるものです。

 

ワクチン担当大臣とは

新型コロナ感染症のワクチン接種を円滑に進めるための全体の調整役として、本年1月に「ワクチン担当大臣」が新たに新設され、行政改革等を担当する河野太郎大臣が任命されました。

ワクチン担当大臣の主な業務は、「ワクチンの輸送や保管、会場の設定といった接種に関するロジ(後方支援)について担当する。」ものです。

任命を受けた河野大臣は、「安全で有効なワクチンを一人でも多く、一日でも早く摂取できるように全力を尽くしたい。」と抱負を述べています。

ワクチン接種をめぐっては、すでに縦割りの弊害が指摘されていました。接種は厚生労働省、輸送は国土交通省、冷凍保管は経済産業省、都道府県との調整は総務省など複数官庁にまたがる一大プロジェクトであり、ワクチン接種での不備や遅れがあれば政権への逆風が強まる懸念もあり、河野大臣の手腕が期待されています。

 

今後の日本のワクチン接種予定

①ワクチン接種計画
新型コロナワクチンの接種をめぐり、調整を担う河野太郎行政改革相は、本年2月26日、医療従事者と高齢者向けとして想定される計約4000万人分の自治体の配送を、6月末までに終える方針を示しました。

政府の計画では、500万人近くの医療従事者、約3600万人の高齢者の順で接種を始め、持病のある人などに広げていくことになっています。高齢者向けは4月12日に数量限定で開始することとし、4月5日の週から順次、自治体向けに送り出すこととされています。

今月24日の発表では、4月26日の週からは「全国すべての市区町村に行き渡る数量」になるとしていましたが、全員に行き渡る時期は示していませんでした。 2月17日から接種が始まった医療従事者向けでは、当初想定していた約370万人分に関して1回目の接種用が届けられるのは、4月中になると表明しました。

日本が使用する米製薬大手「ファイザー社」のワクチンは、欧州連合(EU)内の工場で生産されていますが、約133万人分(1瓶で6回接種できると計算)が、3月中に国内に届くとの見通しも明らかにしました。

政府は新型コロナの基本的対処方針で、6月末までに全国民に提供できる数量の確保を目指すとしていますが、持病を持つ人や、その後の一般国民の接種時期はまだ示せていません。

②政府が確保しているワクチンの種類等
「ファイザー社」(米国)
数量…1億2000万回分、保管温度…-75℃±15℃、発症予防効果…95%

「アストラゼネカ社」(英国)
数量…1億2000万回分、保管温度…2~8℃、発症予防効果…62.1%

「モデルナ社」(米国)
数量…5000万回分、保管温度…-20℃±5℃、発症予防効果…94.1%

※ファイザー社のワクチンは、医療従事者、高齢者、基礎疾患のある人、高齢者施設の従事者へ接種予定、アストラゼネカ社及びモデルナ社のワクチンは一般国民向けに接種予定

③ワクチンの接種方法
接種対象…16歳以上
接種方法…原則として住民票のある市区町村で予約して接種

※接種は1人当たり2回必要、筋肉注射、接種費は全額公費(無料)

 

ワクチン接種に係る課題

①変異ウイルス
空港検疫で昨年末に初めて確認された新型コロナの変異ウイルス(変異株)が、その後国内でも広がりを見せています。各地で見つかった感染者はすでに100人を上回っており、その多くは海外への渡航歴がない人達です。

クラスター(感染者集団)も複数発生し、株の種類も増えています。変異株は感染力が強いと言われています。これに加え、重症化する可能性はどうか、接種が始まったワクチンは有効なのかといった懸念や疑問が浮上しています。

国内で2月に接種が始まったファイザー社のワクチンの効果については、同社などが「変異の影響は小さい」とする論文を米医学誌に発表しています。アストラゼネカ社のワクチンでは効果が弱まる可能性が指摘されていますが、どの程度かははっきりしていません。

緊急事態宣言の解除か継続かを判断する際にも、変異ウイルスの性質や広がりを考慮しなければなりません。感染しやすいウイルスが流行すれば、医療部門への負荷は増すことになるので、十分な病床や療養先を確保できているか、封じ込めの実務を担う保健所に保健所に余裕があるか等を慎重に見極めることが不可欠です。

変異ウイルスの監視と研究は、主に国立感染症研究所と地方の衛生研究所が担っていますが、限界があるので、大学や大学病院、研究機関の人材や施設をもっと活用することができないか等、研究者が連携・協力できる仕組みづくりが求められます。

②ワクチンの囲い込み
欧州連合(EU)が新型コロナワクチンの輸出の許可制を導入しました。十分な購入枠を確保しているものの、供給遅れに危機感を募らせていることによるものです。

製薬会社に出荷量や出荷先の報告を義務付け、EUが確保したワクチンの供給が著しく脅かされる場合には、輸出差し止めも辞さない。途上国向けは対象外とし、3月末まで続ける方針としています。

問題の発端は、欧州各国が昨年12月末から接種を急いでいますが、供給の遅れが目立っていることによるもので、中でもアストラゼネカ社が、当面の1億回規模の供給予定が、4分の1程度にとどまると通知してきたことに対し、順調な英国の工場からの供給は、先に契約を結んだ英国を優先する方針を示し、これにEU側が反発しているもので、世界保健機関(WHO)は「ワクチン・ナショナリズム」は、短絡的で自滅的だと警鐘を鳴らしています。日本のワクチン担当の河野大臣も、突然の輸出入の規制はあってはならないと訴えています。

③自治体との連携
新型コロナ対策として、ワクチン接種に向けた態勢づくりが重要な政策課題になっています。医療関係者の手配や接種場所の準備などの実務を担うのは市町村です。国は適切な指示・助言と情報の共有に努め、現場をしっかり支えなければなりません。

課題は山積しており、例えば、ファイザー社のワクチンは超低温で保管しなければならず、冷凍庫から出した後や開封後の取り扱いに、通常のインフルエンザワクチン以上の注意が必要です。何より大切なのは、いつどれだけのワクチンを供給できるかの情報を、正しく速やかに市町村に届けることです。それがなければ計画の立てようがないし、行き違いがあればせっかくの準備が無駄になっていしまいます。

就任早々、河野ワクチン担当大臣は個人の接種記録の掌握にマイナンバーを活用する考えを打ち出しましたが、厚生労働省はワクチンの流通や情報を管理する別のシステムの構築を進めており、自治体からは戸惑いの声が上がっています。現場に過度の負担を追わせたり、無用の混乱を持ち込んだりしないよう配慮が必要です。

 

この記事でのポイント

・手洗いやアルコールによる消毒が済むまでは、手を口元や鼻に近づけることを避けることで接触感染を予防することが可能。
不織布マスクを装着することで、飛沫感染やエアロゾル感染に効果がある。
・ワクチンが効果を発揮するまで、大規模な行動制限を避けるには、感染経路の追跡が欠かせない。
・「アビガン」は2020年10月16日、新型コロナの治療薬として正式に承認を得るため厚生労働省に申請を行っている。
・「レムデシビル」は新型コロナの治療薬として2020年5月に厚生労働省が特例承認している。
・2021年2月17日現在で、全世界で接種された新型コロナワクチンは、合わせておよそ1億7800回分。
・人口に対する接種を受けた人の割合では、イスラエルがおよそ46.1%と最も高い。
・2020年12月から新型コロナワクチンの接種が始まったアメリカでは、2021年1月初めのおよそ30万人をピークに、このところ減少傾向
・2021年1月に日本では「ワクチン担当大臣」が新たに新設され、行政改革等を担当する河野太郎大臣が任命された。
・日本が使用する米製薬大手「ファイザー社」のワクチンは、約133万人分(1瓶で6回接種できると計算)が、3月中に国内に届くとの見通し。
・「ファイザー社」(米国)の発症予防効果…95%。
・「アストラゼネカ社」(英国)の発症予防効果…62.1%。
・「モデルナ社」(米国)の発症予防効果…94.1%。
・ファイザー社の変異ウィルスへのワクチンの効果については、「影響は小さい」とする論文を米医学誌に発表。アストラゼネカ社のワクチンでは効果が弱まる可能性が指摘されている。