以下、目次となります。
コロナ禍の中、日本の不動産はどうなってきているか?
新型コロナウイルスの感染は、令和2年12月現在、第3波を迎え急拡大を遂げています。こうした中で、不動産の環境もさまざまな影響が出ています。
中長期的な住宅地の不動産価格は、新型コロナの感染が拡大する前から一部の地域を除いて横ばい、あるいは下落に向かうと予測されていました。これは人口減少と都市圏への人口集中がより一層進むという予測に基づくものです。また、マンションについては、既に価格の高騰が顕在化しており、そろそろ頭打ちと考えられていました。
そこへ、今回の新型コロナウイルスの感染拡大で経済が大きなダメージを受けました。不動産は厳しい状況が継続することが懸念されます。企業業種への影響が今後顕在化することや、景気低迷の長期化も懸念され、ひいてはそこで働く従業員の所得への影響も広がりかねません。不動産価格も、想定していた以上に下落する可能性があります。こうした状況下で、オフィスと住宅地の動向について概観します。
①オフィスの動向
新型コロナウイルスの感染拡大前、オフィスは通勤や営業拠点としての観点から、交通の良いところに立地する必要があると考えられてきました。今回のコロナの影響でテレワークが浸透し、紙の種類が減少し、決済などもリモートで行える環境整備が進んでいます。基本は在宅勤務、出社が必要な時だけ使えるデスクがあればいいというスタイルのオフィスが普及しつつあります。
今後テレワークの導入等が定着化することにより、オフィスで働く人の数が減り、さらに景気低迷の長期化懸念もあることから、オフィスのニーズは減少することが予想されます。既に中小企業等の比較的小さな規模のオフィスを構えていた企業は、オフィスの解約や縮小に動き始めているといわれ、大きな会社も徐々にそうした状況に移行していくのではないかと考えられます。
東京駅周辺の地価を例にとると、2008年のリーマンショックを機に下がり始めた地価は、2013年までに約30%下落しましたが、アベノミクスのスタート以降持ち直し、本年1月時点までは2008年度とほぼ同等まで回復していました。しかしながらコロナ後は、オフィスの空室率が上がり、賃料は下落、地価も再び下落に転じることが予想されます。
②住宅地の動向
新型コロナの影響で、在宅で仕事をする人が増えることは、住宅事情にも大きな変化をもたらします。通勤の機会が減り、在宅勤務が増えることで、自宅にはオフィスまでの距離、通勤時間よりも、住宅環境や自宅での執務環境を考慮するケースが増えると考えられます。
もともと人口減少が進むことが明らかな日本の状況下で、既に空き家率も上昇していることから、今後多くの住宅地の価格は下落する可能性が高いと考えられていました。特にマンションの価格は新築、中古とも2013年以降大幅に上がり、その価格上昇を抑えるため、1戸当たりの面積を小さくすることも行われていました。
しかし、自宅で仕事をするようになると、住戸が小さく執務スペースが確保できないことは大きな問題です。夫婦ともに在宅勤務であったり、子どもがいたりすると集中して仕事をすることは困難です。通勤の利便性よりも個室や面積を優先したいというニーズが高まれば、買い替えを検討する人も出てくると考えられます。
戸建住宅では、マンション程の価格上昇はありませんでしたので、価格変動も比較的小さいものでした。また、マンションに比べ自由に間取り変更ができるケースが多いので、今後需要が大きくなることも予想されます。
いずれにしても住宅の価格は、マンションは大幅に価格が下がる可能性がある一方、戸建住宅は、場所によっては伸びが見込めることが予想されますが、長期的には人口減少の影響もあり、多くのところで価格は下落すると考えられます。
サラリーマンや一般の人でもできる不動産経営や投資
不動産経営や投資(以下「不動産投資」という。)とは、不動産に対する投資で、主に不動産を購入し、それを他人に貸すことで家賃収入を得ること等を指します。主な不動産投資は次の通りです。
・ワンルームマンション経営
・アパート経営
・戸建て投資
・不動産投資信託(J-REIT)
・その他の投資(民泊投資、駐車場投資等)
以上の不動産投資のうち、ワンルームマンション経営、アパート経営、不動産投資信託について説明し、その後に不動産投資のメリットとデメリットについて説明します。
①ワンルームマンション経営
ワンルームマンション経営は、マンションの1室を購入し、それを賃貸することで収入を得る方法で、比較的手軽に始められるので人気の不動産投資です。区分所有になるので投資に対する土地の割合は極めて小さく、そのほとんどが建物の価値になります。そのため、建物の減価償却による節税効果が大きくなります。
ワンルームマンション経営では、マンションの1室に投資しますので、その1室が空室になってしまうと家賃収入が全くなくなり、経営的には不安定とも言えますが、基本的には管理会社が一括管理してくれるので、運用の手軽さの点では高いものとなっています。
②アパート経営
アパート経営は建物1棟を経営します。アパートの購入は土地と建物となり、どうしても金額が高額になります。通常金融機関の融資により資金調達を行いますが、住宅ローンと異なり、収益性が重要視されますので、収支計画がしっかりしていることが、融資の条件となります。
アパート経営は複数の部屋を持つことになるので、仮に1部屋が空室になったとしても家賃収入は減収で済みます。従って空室リスクを分散できることになりますが、マンションの1室と違い、アパート1棟は投資金額が大きいので、入居者が現れないと損失が大きくなります。
③不動産投資信託(J-REIT)
不動産投資信託は、投資家から資金を集め、オフィスビルや商業施設、マンションなどの不動産を購入し、運用益を投資家に配分する仕組みで、1口10~20万円の銘柄が多く、現物不動産投資に比べて圧倒的に少ない資金で投資を始められます。複数の不動産に対する投資が行われるため、リスクが分散されますが、現物不動産投資に比べると利回りが低くなりがちと言われています。
④不動産投資のメリット
・レバレッジ効果
…金融機関の融資等により、自己資金以上の金額で投資ができます
・節税効果
…「減価償却費」を経費に計上したり、その他「借入金利息」など計上できる費用が多く、結果として不動産投資をしなかった場合に比べて所得税の納税額を減少させることができます
・安定した収入
…毎月決まった家賃収入が得られ、長期運用ができます
・相続対策
…現金で相続する場合と土地建物で相続する場合、相続税は約47.5%節税になります
(相続税)
現金1億円相続した場合(相続人1人)
1億円―(3000万円+600万円×1人)=6400万円
6400万円×30%-700万円=1220万円
5000万円の土地と5000万円の建物を相続した場合(相続人1人)
{(評価額…土地は実勢価格の80%(路線価方式)、建物は実勢価格の70%(固定資産税評価額)}とする
土地 5000万円×80%=4000万円、建物 5000万円×70%=3500円
土地・建物合計 4000万円+3500万円=7500万円
7500万円―(3000万円+600万円×1人)=3900万円
3900万円×20%-200万円=580万円
580万円/1220万円=47.5%
⑤不動産投資のデメリット
・初期費用(ランニングコスト)への対応
…概ね物件価格の8%~10%(仲介手数料、ローン事務手数料、ローン保証料、火災保険料・地震保険料、不動産登記費用、各種税金等)
・流動性リスク
…流動性が他の投資商品に比べ高くない
・空室リスク
…空室時に収入がなくなるリスク
・天災リスク
…台風や地震などで不動産がダメージを受けるリスク
・不動産価格の下落リスク
…購入時よりも不動産価格が下落するリスク
都心と地方での不動産の違い
①都心の不動産
都心で不動産投資をする大きなメリットは、今後も人口増による賃貸物件への需要が期待できることです。企業がオフィスを構え、学校や商業施設も豊富で人口が集中している都心は、新型コロナウイルスの影響はあるものの、今後も地方からの流入が想定されます。
賃貸ニーズの高い状態が続くことで、賃料の値下がりなどのリスクも低くなっています。退去が発生しても、入居者を見つけるまでの空室期間が比較的短く、入居者募集に係る手間、コストを抑えることができます。
また都心で、特に未婚者、一人暮らしの高齢者などが増えていることも、1Kやワンルームマンションなどコンパクトサイズの賃貸住宅市場を活性化させる要因となっています。
懸念点としては、人気のエリアほど地方に比べて利回りが低いことです。税金や管理費などの経費と融資の返済を考えると、インカムゲイン(賃料収入)からの残りはあまり期待できません。融資に関しても、一定規模の自己資金や資産を持っていないと融資が受けにくいと言われます。
そのため、都心の物件は低利回りで自己資金比率も高く、投資としてのうま味が少ないと考えがちですが、不動産購入後数年で転売して多額のキャピタルゲイン(売却益)を出している事例も数多くあり、海外投資家も含めた不動産投資需要の高さから、物件の流動性も高く、キャピタルゲインを狙えるなどの魅力があります。
②地方の不動産
地方の不動産投資物件の特徴は、都心に比べて同じ規模でも割安で、高い利回りが期待できる物件が多いということです。また、不動産価格が比較的安定しているため、都心に比べてキャピタルゲインが期待しづらく、利益の源泉は、長期の事業としてのインカムゲインが主となります。
地方での不動産投資の難しさは、その事業を継続させるためのハードルが都心の物件よりも高いことが挙げられます。その理由として、地方ではエリア選定の難しさ・安定稼働させる難しさが都心よりも高いとされることです。
エリア選定の大原則は、「満室稼働が見込める」ことですが、将来予想される地方の人口減のリスクをを考えると、現在の賃貸需要だけでなく、収支バランス維持の方法と将来の資産売却を含めた長期的な視点が都心よりも多く求められます。
国や地方自治体による再開発事業や近隣の学校施設や労働需要のある工場の存在など、将来にわたって満室稼働可能かどうかを見極める要素は多岐にわたります。
そこでエリア選定を誤ると、稼働率を維持するために想定されるより早いペースで家賃の減額や設備の改修等を実施せざるを得なくなるなど、高い利回りのメリットが失われる恐れがあります。場合によっては、売却損(キャピタルロス)を出して損切りするという選択を取らざるを得ない可能性もあり、注意が必要です。
※利回りとは
…年間の家賃収入÷物件購入価格
不動産に関する税金について
①取得時
項目 | 内容 | 課税主体 | 課税標準 | 税率 |
不動産取得税 | 不動産(土地、建物)の取得に対して課税 | 都道府県 | 固定資産税評価額 | 原則 3% |
登録免許税 | 登記申請時に課税 | 国 | 不動産の価格等 | 原則4/1000 |
印紙税 | 不動産の購入時等に印紙を貼り、それを消すことで国に税金を納付 | 国 | 課税文書の数 | 段階定額税率 |
②保有時
項目 | 内容 | 課税主体 | 課税標準 | 税率 |
固定資産税 |
1月1日において固定資産(土地、家屋等)を所有する者に課税 |
市町村 | 固定資産税評価額 | 標準1.4/100 |
都市計画税 |
市街化区域内における土地、家屋の所有者に課税 |
市町村 | 固定資産税評価額 | 制限0.3/100 |
③譲渡時
項目 | 内容 | 課税主体 | 課税標準 | 税率 |
長期譲渡所得課税 | 長期間有していた土地建物等の譲渡による所得(所有期間が5年超) | 国
住民 |
総収入金額ー(取得費+譲渡費用) | 国 15% 住民税 5% |
短期譲渡所得課税 | 短期間有していた土地建物等の譲渡による所得(所有期間が5年以内) | 同上 |
同上 |
国 30% 住民税 9% |
・住民税は市町村民税と都道府県民税に分かれていて、その負担割合は
長期…市町村民税3%、都道府県民税2%
短期…市町村民税5.4%、都道府県民税3.6%
となります。
④譲渡時(特例)
内容 | 適用条件等 |
居住用財産を譲渡した場合の3,000万円特別控除 譲渡所得の計算 総収入金額―(取得費+譲渡費用)-特別控除(3,000万円) |
3年に1度しか適用できない等
|
相続した空き家を譲渡した場合の3,000万円特別控除譲渡所得の計算 同上 |
相続の日から、3年経過した年の12月31日までの間に譲渡等
|
居住用財産(所有期間10年超)の譲渡の軽減税率の特例 税額の計算 ⅰ 6,000万円以下の部分 所得税=課税長期譲渡所得金額×10% 住民税= 〃 ×4%ⅱ 6,000万円超の部分 所得税=課税長期譲渡所得金額×15% 住民税= 〃 ×5% |
3,000万円控除後の軽減税率の適用 |
この記事でのポイント
・住宅の価格は、マンションは大幅に価格が下がる可能性があり、戸建住宅は長期的には人口減少の影響もあり、多くのところで価格は下落すると考えられる。
・ワンルームマンション経営は、建物の減価償却による節税効果が大きく、経営的には不安定とも言えるが運用の手軽さの点では高い。
・アパート経営はマンションの1室と違い、アパート1棟は投資金額が大きいので、入居者が現れないと損失が大きくなる。
・不動産投資のメリットはレバレッジ効果、節税効果、安定した収入、相続対策が挙げられる。
・不動産投資のデメリットは初期費用(ランニングコスト)への対応、流動性リスク、空室リスク、天災リスク、不動産価格の下落リスクが挙げられる。
・都心での不動産投資は海外投資家も含めた不動産投資需要の高さから、物件の流動性も高く、キャピタルゲインを狙えるなどの魅力がある。
・地方の不動産投資は高い利回りが期待できる物件が多いが、エリア選定を誤ると、売却損(キャピタルロス)を出して損切りするという選択を取らざるを得ない可能性もあり注意が必要。