以下、目次となります。
日本の医療はなぜひっ迫しているのか。
厚生省の新型コロナウイルス感染症対策分科会(以下「分科会」という。)は、以下6つの指標により、⓵人口10万人当たりの感染者数⓶感染者数の前週比⓷コロナ患者専用病床の使用率⓸人口10万人当たりの療養者数⓹PCR検査の陽性率⓺感染経路不明者の割合全国47都道府県の感染状況を4段階に区分しています。
感染状況のステージ1は「感染者の散発的発生」、ステージ2は「感染者の漸増」、ステージ3は「感染者の急増」、ステージ4は「爆発的な感染拡大」とされています。
人口100万人あたりの感染者数は、本年5月26日現在、アメリカ=10万271人、フランス=8万7066人、ドイツ=4万3767人、ブラジル=7万6565人などいずれも1万人を大きく上回りますが、日本は5780人、感染者数が桁違いに少ない日本が医療崩壊に直面しているのは何故でしょうか。
日本が病床がひっ迫する理由の一つとして、新型コロナ感染症の患者を受け入れない医療機関が多いことが挙げられます。新型コロナ患者の受け入れにより、患者クラスターや感染者、濃厚接触者が発生し、病院全体を閉鎖しなければならなくなるリスクを避けるためです。日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会の調査によれば、2020年4~9月に新型コロナ患者を受け入れた医療機関の割合は30%強と言われます。
また、世界の人口千人当たりの総病床数は、イギリス=2.6床、アメリカ=2.8床、フランス=6.1床、ドイツ8.1床に対して、日本は13.1床あり、日本はイギリスに比べて5倍以上の病床があります。
このように病床数が多いのになぜ医療がひっ迫しているのかは、別の要因として、日本はもともと1病床当たりの医師数、看護師数が少ないうえに、24時間体制でスタッフが必要な人工呼吸器やECMO(体外式膜型人工肺)を装着する新型コロナ患者を受け入れることにより、医療機関の人手が足りなくなっていることが挙げられます。
経済協力開発機構(OECD)によれば、100病床当たりの医師数は、イギリス=108.1人。アメリカ=92.1人、ドイツ=51.9人、フランス=51.8人に対して、日本は18.1人に留まります。
同じく100病床当たりの看護師数は、アメリカ=403.8人、イギリス=306.0人、フランス=168.6人、ドイツ=159.4人に対して、日本は86.5人と極端に少なくなっています。この結果からみると、日本は病床数が多すぎて医師、看護師が分散するため、重症患者の受け入れが難しいことが分かります。
新型コロナ患者を受け入れる医療機関では、新型コロナ患者だけでなく、一般患者、スタッフの感染症対策にも対応しなければなりません。新型コロナ感染症に加えて、がん、心臓病、脳卒中など生命にかかわる重篤な患者も診療しなければならず、スタッフが疲弊し、病床がひっ迫していくのは必然的なものといえます。
日本医師会とは?
公益社団法人日本医師会(以下「日本医師会」という。)は、日本の医師であることを入会の要件とする職能団体です。入会は任意であり、組織率は2019年末で172,763人(有資格者の約5割強)で、開業医が83,368人、勤務医等が89,395人とほぼ半数ずつを占めています。
1951年、世界医師会に加盟しています。法人の種類としては公益社団法人ですが、開業医等が運営する利益団体としての性格を持ちます。
日本医師会は、医道の高揚、医学教育の向上、医学と関連科学との総合進歩、医師の生涯教育などを目的としており、その目的を達成するため医師の生涯教育や公開の健康セミナーなどの学術活動、医療・保健・福祉を推進するための医療政策の確立、生命倫理における諸問題の解決などの幅広い公益事業を行っています。
また、自由民主党の支持母体である政治組織である「日本医師連盟」を通して政治活動を行っています。
日本医師会の会長は、医師会員の代表決議機関である日本医師会代議員会で、代議員による選挙によって選出され、任期は約2年間です。現在の日本医師会の会長は、中川俊男会長です。
都道府県医師会、郡市区医師会はいずれも独立した公益法人ですが、日本医師会の下部組織です。日本医師会、日本歯科医師会、日本薬剤師会を合わせて「三師会」と称しています。
日本医師会のコロナウイルスに対する考え
①新型コロナウイルス感染症に関する最近の傾向について(令和3年4月21・28日)
中川会長は今回、感染が拡大した理由として、ⅰ感染力が強い変異株N501Yの全国への急速な広がり、ⅱ新規感染者数の増加の兆しが見られる中での首都圏1都3県の宣言解除、ⅲ政府の繰り返しの要請に切迫感が感じられにくくなっている の3点があると分析。
宣言解除に当たっては、すべての指標がステージ2の基準になるか、あるいはステージ3ではあるものの、この状況が続けばステージ2になるのが確実となった時点で解除を検討すべきであるとの考えを改めて説明するとともに、解除の基準を示さなければ国民が不安になるとして、陽性者の減少や病床逼迫度の改善が達成されれば解除するということを提案
しました。
その上で、これらの状況を見れば、変異株N501Yの全国的な広がりにより、「必
要な時に適切な医療を受けることができない」という医療崩壊が始まっていることは明らかだとして、危機感を示しました。
更に、今後に関しては「新型コロナウイルス感染症の患者への対応には、多くのマンパワーが必要であり、病床だけで考えることは適切ではない」と述べ、重症者は特定機能病院と基幹病院、中等症患者は重点医療機関が中心的な役割を果たし、それらの病院の通常医療を他の医療機関が担うといった地域全体で新型コロナの医療提供体制を強化していく必要があると指摘し、日本医師会としても継続的に全国の病床確保を支援していく姿勢を示しました。
②新型コロナワクチン接種について(令和3年6月2日)
中川会長は、「現在ワクチンの供給量は十分確保されており、接種できる場所の選択肢も増えている。希望される方は必ず接種を受けることができるので、安心してほしい」とし、地域の実情に応じて、集団接種と個別接種を適切に組み合わせることが重要であると強調しました。
また、地域の医師会やかかりつけ医等の医療機関では、ワクチン接種のスピードアップに向けて総力を挙げて取り組み、その機動力も発揮されてきたことを報告し、自治体と医師会の連携により接種率が向上していることや、日常診療において、かかりつけ医が患者に接種の呼びかけを行う等、それぞれの具体的な取り組み事例について紹介しました。
更に、ファイザー社のワクチン管理について、2~8℃で1か月間の冷蔵保存が可能となったことで、医療機関にとっても使い勝手が良くなったことを挙げ、今後のワクチン接種について、かかりつけ医による個別接種が進むとの見通しを示しました。
その他、接種を希望される方が、速やかに接種を受けられるよう、学校や職域といった、あらゆる場面で接種を受けられる体制づくりが今後ますます必要になってくると指摘。
引き続き、幅広い関係先と緊密な連携を取りながら、全国の医師会や会員の先生方と力を合わせて、接種体制の整備を更に進めていくとの考えを示し、その支援と協力を求めました。
日本医師会のオリンピック開催に関する考え
東京都医師会の尾崎治夫会長が、5月27日、日本記者クラブでオンライン記者会見を開き、7月23日開幕の東京五輪・パラリンピックについて、「今の状況が続けば、開催は難しくなると思っている」と述べました。
尾崎会長は会見で、「東京の新規感染者数を1日当り100人以下を目指す。そこまで頑張って緊急事態宣言を延ばすことが必要なのではないか。そこまで落とさないと、五輪が開催される7~8月大きなリバウンドが起きる」と指摘しました。その上で、「ある意味、最後のチャンス。更に人の流れや人と人の接触を抑えられれば、100人以下にするのは不可能ではないと強調。今夏に五輪を開くのであれば、「無観客で開催していただくのが最低限の話ではないか」との見解を示しました。
尾崎氏はまた、海外から入国予定のスポンサーや国際オリンピック委員会(IOC)関係者、海外メディア関係者の数も減らし、「スリムな形で開催」が望ましいと提案しました。観戦方法については、「自宅でテレビで観戦してもらうよう呼びかければ、感染を抑えることにつながる」と話しました。
日本医師会の中川俊男会長は、4月14日の記者会見で、開催まで100日と迫った東京五輪・パラリンピックについて、「日本医師会長としての発言はございません。個人的にはいろんな思いもありますが、ここでは差し控えたい」としました。
日本医師会と自民党
日本医師会は、全国の開業医や勤務医およそ17万人が加入する公益社団法人ですが、その影響力は業界に留まらず、政界にも及びます。医師会の政治団体である「日本医師連盟」は、自民党を中心に与野党に対して5億円近くを献金しているほか、自民党議員の選挙戦を医師会が全面支援し当選させるなど、かなりの影響力を持っています。その上資金が潤沢な開業医は、国会議員に対して個人献金や政治資金パーティーの券購入などを通して、政治家個人の有力な支援者となっています。
2020年6月に日本医師会の新会長に就任した中川俊男会長は、7月に自民党二階幹事長を訪問し、「医師会と自民党との関係は、今までと全く変わりない」と強調し、選挙で自民党を支持することや、政策面で協力関係を継続する考えを示しました。
自民党は、100万人の集票力を持つと言われる医師会の意向を無視することができず、医師会の関係が崩れれば選挙で大敗しかねないという危機感があり、医師会も自分たちの利益を守るために、医師の数を増やさないように政府に圧力をかけ続けているということが言われています。
日本医師会会長がたびたびマスコミに登場し、「医療崩壊が日常化している」といった声高な発言が行われていますが、この医師会がコロナ患者をほとんど受け入れていない開業医が中心の団体であり、むしろ狙いは開業医の経営難の救済が目的ではないかといった意見があることも注意を要します。
中川会長の自民党議員のパーティ出席の問題
日本医師会中川会長は、「新型コロナのまん延防止等重点措置」期間中だった令和3年4月20日、都内で開かれた自民党の自見英子参院議員の政治資金パーティに参加していたと、文春オンラインに報じられ、謝罪しました。
中川会長は自見参院議員の後援会長を務め、政治資金パーティには日本医師会の幹部等約100人が出席していました。中川会長は、感染対策ガイドラインの基づいて検温やマスクの着用、手指消毒などを徹底したうえで食事は提供せず、「感染対策は十分だった」と釈明しましたが、新型コロナ禍での政治資金パーティには、以前から批判の声が上がっていました。
中川会長は、「国民が新型コロナに慣れてしまい、自粛という我儘は限界にある。国民の中に危機感、緊張感を呼びもどさなければならない」などと、再三再四、感染予防対策の徹底を呼び掛けていただけに、会長のパーティ出席は国民の怒りを買うこととなりました。
自見参院議員は、日本医師会の政治団体である日本医師連盟の組織内議員で、来年に改選を迎えます。選挙にはカネがかかり、新型コロナ禍で政治資金パーティを見送れば、いつ開催できるかわからなくなるので、日本医師会が主導でパーティを強行したのではないかと言われます。
中川会長は日本医師会の定例記者会見で、「3度目の緊急事態宣言は不可避の状況」との見解を示し、早急に厳しい制限を伴った緊急事態宣言の発令を政府に要望していました。緊急事態宣言下となると政治資金パーティを開催できないためパーティを急いだとも言われます。
中川会長は、「多くの国民の皆様が我慢を続けて下さっている中で、慎重に判断すればよかった」と反省の弁を述べています。
コロナ対策に望まれる医療体制と日本医師会の役目
政府は、医療機関に患者受け入れを勧告できるように感染症法を改正する方針と言われます。ただ、新型コロナ患者を受け入れていない医療機関は、そもそも呼吸器の専門医がいなかったり、感染症対策を行うスタッフが不足していたりする施設も多く、政府が患者受け入れを強制しても、医療現場で適切に治療が行われない危険性があります。
新型コロナによる医療崩壊を防ぐためには、専門的な感染症管理、呼吸管理ができる医療機関に中等・重症患者の集中化を図る必要があります。分散している専門医やICU病床を集中し、専門医療機関の重点化を図れば、救急車で運ばれてくる重症患者を受け入れる確率を高めることができます。
こうした状況の中で、今日本医師会に求められることは、人的に余裕のある病院が状況に応じて機動的に他の病院を支援する仕組みづくりや、病床数や医療スタッフの配分の不効率性の改善に医師が総力を挙げて取り組むよう、医師会全体をまとめ、医師の協力体制を作り上げることが、何よりも必要となっています。
この記事でのポイント
・公益社団法人日本医師会(以下「日本医師会」という。)は、日本の医師であることを入会の要件とする職能団体のことである。
・日本医師会中川会長は重症者は特定機能病院と基幹病院、中等症患者は重点医療機関が中心的な役割を果たし、それらの病院の通常医療を他の医療機関が担うといった地域全体で新型コロナの医療提供体制を強化していく必要があると指摘し、日本医師会としても継続的に全国の病床確保を支援していく姿勢を示した。
・日本医師会中川会長は、「現在ワクチンの供給量は十分確保されており、接種できる場所の選択肢も増えている。希望される方は必ず接種を受けることができるので、安心してほしい」とし、地域の実情に応じて、集団接種と個別接種を適切に組み合わせることが重要であると強調している。
・東京都医師会の尾崎治夫会長が、5月27日、日本記者クラブでオンライン記者会見を開き、7月23日開幕の東京五輪・パラリンピックについて、「今の状況が続けば、開催は難しくなると思っている」と述べている。
・医師会の政治団体である「日本医師連盟」は、自民党を中心に与野党に対して5億円近くを献金しているほか、自民党議員の選挙戦を医師会が全面支援し当選させるなど、かなりの影響力を持っている。
・日本医師会中川会長は、「新型コロナのまん延防止等重点措置」期間中だった令和3年4月20日、都内で開かれた自民党の自見英子参院議員の政治資金パーティに参加していたと、文春オンラインに報じられ、謝罪している。
・日本医師会に求められることは、人的に余裕のある病院が状況に応じて機動的に他の病院を支援する仕組みづくりや、病床数や医療スタッフの配分の不効率性の改善に医師が総力を挙げて取り組むよう、医師会全体をまとめ、医師の協力体制を作り上げることが、何よりも必要となっている。