菅政権の概要

アメリカの大統領選もいよいよ大詰めですが、日本も新しい総理大臣となって1か月ほど経過しました。日本は今後どうなっていくのでしょう。
安倍前総理の電撃の辞任から菅政権が誕生し1か月以上が経過しました。コロナ禍もまだまだ予断を許さない中、菅政権の今後の政策に注目が集まっています。

 

コロナ禍の中、日本では総理大臣が体調不良により電撃辞任しました。新しい総理大臣は「令和おじさん」で有名になった当時の官房長官であった菅氏です。コロナ禍で政権不信に陥っていていた中での新しい総理の誕生は、日本人の生命や経済に対し救世主になってくれるのではと期待の声も高まっています。本日は、この新しい菅政権について解説していきます。

 

以下、目次となります。

菅政権と安倍政権の政策の違い

首相在任期間7年8カ月、「阿部一強」と言われた長期政権が終焉しました。退陣の直接の理由は、持病の再発により政権の維持が困難になったということでしたが、長期政権のおごりや緩みから、政治的にも、政策的にも行き詰まり、内閣支持率の低下等が、退陣の背中を押した面も否めないと言われています。

安倍政権の代表的な政策は、「アベノミクス」ですが、400万人を超える雇用をつくり出し、新型コロナウイルスによる変調までは、全都道府県で有効求人倍率が1倍を超え、失業率も2%台前半の低水準を維持できましたし、最低賃金の引上げにも取り組みました。

また、働き手の保護や底上げを図る政策を打ち出し、残業時間の罰則付き上限規制などを盛り込んだ「働き方改革関連法」を成立させ、非正規の働き手の待遇改善を目指した「同一労働同一賃金」を実現いたしました。

しかしながら、安倍政権下で就業者は増えましたが、増えた半分は立場が不安定な非正規の労働者であり、春闘で正社員の賃金が上がっても働き手全体の平均賃金は伸び悩み、物価も上がる中で賃上げの実感は感じられないと言われています。

衆参の国政選挙で6連勝を果たし、その政治基盤を活用して、集団的自衛権行使に道を開く安全保障法制や特定秘密保護法、共謀罪法など、世論の賛否が割れた法律を成立させるなど、その強引な手法は注目されました。

外交・安全保障分野では、首脳間の関係を深めるのに長期政権が役立った側面はありますが、「戦後日本外交の総決算」をスローガンに取り組んだ北方領土交渉は暗礁に乗り上げ、拉致問題も前進は見られませんでした。

安倍政権を引き継いだ菅政権は、10月16日に誕生しましたが、大規模な金融緩和や財政出動などを柱とする経済政策「アベノミクス」など、前政権の方針を引き継ぎ、前に進めていくと表明しています。

菅首相は、「自助、共助、公助」を政策の基本に据え、役所の縦割り、既得権益、悪しき前例主義を排して、規制改革を進めるとも強調しています。政権がスタートしたばかりで全体像が見えにくい段階とも言えますが、安倍政権との政策の違いとして、次の点が注目されます。

安倍政権は、金融、財政政策を通じて景気を押し上げ、安定を図るということを主眼としておりましたが、菅政権では、構造改革を通じて効率性を高め、日本経済の潜在成長率を向上させることが伺えることです。

内閣改造においても、菅カラーとして、「行政改革担当相」と「デジタル改革担当相」の設置が行われました。行革相に起用したのは、河野太郎前防衛相で、行政の無駄に切りこもうとする姿勢がみられる河野氏を高く評価して任命し、さらに国民の声を聴く「縦割り110番」の設置を指示しています。新設されたデジタル相に起用したのが、平井卓也元IT担当相です。平井氏は党内では「デジタル通」として知られ、早速「デジタル庁」の創設に向けて取り組みが始まります。

新政権にとって、当面の最重要課題がコロナ過への対応であり、感染拡大の勢いがやや衰えているとはいえ、インフルエンザとの同時流行が懸念される秋冬に向け、万全の備えが必要といえます。また感染症のために厳しい経済環境に対応する必要性も強調しており、これまで行ってきた持続化給付金やGoToキャンペーンの継続、拡充が挙げられます。

この他、菅首相が強調しているのが、不妊治療の保険適用と待機児童の解消等、少子化対策。中小企業の統合・再編や地銀再編等中小企業対策。観光振興や農産物の輸出等による地方活性化。携帯電話の通話・通信料金の引き下げ等です。

 

デジタル庁とは

先に新型コロナ対策では、助成金などのオンライン申請の不備や医療・教育分野のオンライン化の遅れ、国と地方の情報システムの連携の悪さなどが露見し、これらの改善が菅政権にとって、取り組むべき主要課題となっていました。

このように立ち遅れが浮き彫りになっているデジタル化を集中的に進める方策として、「デジタル庁」を新設し、複数の省庁にまたがるデジタル化に関する施策を一元化しようとする政策が導入されました。

具体的な業務としては、国と自治体のシステムの統一や、マイナンバーカードの普及促進、スマートフォンによる行政手続きのオンライン化及びオンライン診療やデジタル教育の規制緩和などが検討されています。

菅首相は閣僚に対し、「思い切って政府一体でデジタル化を強力に推進する」と指示し、特に、これまで総務省が兼務の形で所管してきたマイナンバー制度を、専任のデジタル改革担当相に担わせ、行政のデジタル化に欠かせない普及率が未だ2割弱に留まるといわれるマイナンバーカードを、健康保険証や運転免許証などにも使えるよう推進を図り、社会全体のデジタル化を進める基盤にしたいと意欲的に取り組んでいます。

ただ、マイナンバーカードの問題点は、様々な個人情報を政府に把握されるのではないかと不安を抱く人は少なくなく、国民の理解を得ながら進めていくことが求められています。

「デジタル庁」の設置に向けて、政府は年内に基本方針を定め、来年の通常国会に必要な法案を提出することにしています。

河野太郎の縦割り110番とは

河野太郎行政改革相は、9月25日、役所の規制などに関する苦情の提案を募る「規制改革・行政改革ホットライン」(縦割り110番)の内閣府ホームページ(HP)への開設を発表しました。この「縦割り110番」は、菅首相が河野氏を行革相に任命するに当たり、検討を指示したものです。

縦割り110番とは、無駄な規制、仕事を妨げている規制、役所の縦割りで困っていることなどの情報提供を呼び掛けることで、政府が把握できていない課題をあぶりだす狙いがあるといわれています。

菅首相が7年以上官房長官を務めてきた中で、なかなか進めない政策課題は、大体役所の縦割りや前例主義が壁になってできなかったとされ、そういう役所の縦割りシステムがあるが故の弊害や既得権益があるせいで取り合ってもらえないなどへの、生の国民の声を聴くために110番を設置するという意図があると考えられています。

河野行政改革相は、これに先立ち、自らのHPに「行政改革目安箱」を設置しましたが、4,000件を超える情報や意見が殺到し、当初は自らがすべてに目を通す方針でしたが、これを停止し、今後は「役所のプロセスにまず乗せ、必要なものには目を通していきたい」と軌道修正し、既存の「規制改革ホットライン」を改組する形で縦割り110番が開設されています。

コロナ対策

新型コロナウイルスの感染者数は、10月17日現在で1日当たり625人、総感染者数は92,907人に上ります。新たな感染者数は、1日1,000人を超えていた7月下旬~8月上旬をピークに減少傾向にありますが、日によって変動があるものの500人前後で推移しており、油断できる状況にはありません。むしろ秋から冬にかけて増加するという予想もあります。

共同通信の世論調査で、菅政権が優先して取り組むべき課題として、「新型コロナウイルス」の回答が64,1%と最も高い割合となりました。

菅政権は新型コロナウイルスの感染防止として、まず検査体制では、地域の医療機関で1日平均20万件の検査能力を速やかに確保するとともに、

感染が拡大している地域の医療機関や介護施設における一斉の検査する実行に移すこと。

また、地域の医療提供体制を維持・確保するために、新型コロナウイルス感染患者を受け入れる医療機関の安定的な経営を確保するための支援を行うこと。

さらに、ワクチンや治療薬の開発、研究を加速し、ワクチンについては、安全性、有効性を再確認して来年前半までに、全国民に提供できる数量を確保すること等を目指しています。

コロナ禍の中で、経済は戦後最大の落ち込みを記録しました。こうした中、雇用を守り、事業を継続するために、これまでも持続化給付金や雇用調整助成金、無利子・無担保融資などの支援が行われましたが、今後ともこれらの強化が必要とされています。また、観光、飲食、イベントなど、ダメージが大きかった業種への支援策としてGoToキャンペーンが推進されているところです。

今後の課題としては、コロナと長く付き合う観点から、地域の感染対策に責任を有する知事や首長の権限強化が必要です。地域の実情に合った対策を臨機応変に打てるよう、資材や人員などを含め、各地の保健所や検査センターの拡充が求められます。

菅政権で日本はこう変わる?

安倍前政権下での「アベノミクス」は、第1の矢である金融政策、第2の矢である財政政策は成功しましたが、第3の矢である成長戦略は不十分に終わりました。安倍政権の政策を継承する菅政権としては、この成長戦略を軌道に乗せることが最重点課題になっています。

菅内閣発足後、早速閣内にデービッド・アトキンソン氏等8人を有識者として起用する「成長戦略会議」を設け、経済財政諮問会議が示す方向性に沿って、制度改正などの具体化を行うこととしており、来年6月頃に成長戦略をまとめることとしております。

菅首相は、縦割り行政や携帯電話3社の寡占状態がもたらした弊害等に触れ、「規制改革を政権の中心に据える」とし、民間企業の競争を促し、消費者の利便性を向上させるとともに、企業の新陳代謝を高め、経済を活性化させるという目標を掲げています。

菅首相の政策は「スガノミクス」ともいわれますが、経済再生・デフレ脱却というマクロ目標を掲げた安倍前首相の「アベノミクス」と異なり、携帯料金値下げや地銀再編など、より個別でミクロ的な政策を重視しています。これら個別案件の実現等により、着実に成果を積み重ね、規制改革の推進を図っていくものと見られます。

菅政権のもう一つの目玉政策がデジタル庁の創設です。日本がこれから向かう先は、様々な分野で規制緩和が進み、同時にデジタル化が加速する社会です。その結果として、新技術で社会を便利にする新興のテクノロジー企業が活躍する場が増え、ダイナミックな産業構造の変化と新たな社会生活の到来が期待されます。

 

この記事でのポイント

・菅首相は、「自助、共助、公助」を政策の基本に据え、役所の縦割り、既得権益、悪しき前例主義を排して、規制改革を進めるとも強調。
菅政権では、構造改革を通じて効率性を高め、日本経済の潜在成長率を向上させることが伺える。
・菅カラーとして、「行政改革担当相」と「デジタル改革担当相」の設置が行われる。
・マイナンバーカードを、健康保険証や運転免許証などにも使えるよう推進を図り、社会全体のデジタル化を進める基盤にしたいと意欲的に取り組んでいる。
・縦割り110番とは、無駄な規制、仕事を妨げている規制、役所の縦割りで困っていることなどの情報提供を呼び掛けることで、政府が把握できていない課題をあぶりだす狙いがある
・新型コロナウイルスの感染防止として、検査体制では、地域の医療機関で1日平均20万件の検査能力を速やかに確保すること等を目指している。
・コロナと長く付き合う観点から、地域の感染対策に責任を有する知事や首長の権限強化が必要。
・菅首相の政策は「スガノミクス」ともいわれ、携帯料金値下げや地銀再編など、より個別でミクロ的な政策を重視。